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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2639号 判決 1976年3月30日

控訴人

中村トキ

右訴訟復代理人

伊藤武

被控訴人

森鋼管株式会社

右代表者

遠藤修

右訴訟代理人

松本義信

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

当裁判所も被控訴人の控訴人に対する本訴請求は正当として認容すべきものと判断するものであるが、その理由は、以下のとおり付加訂正するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決理由一枚目表六行目から七行目にかけて「第一〇号証」とある次に「(原本の存在も争いがない。)」と付加し、同九行目に「右甲第一〇号証の供述記載」とある次に「および弁論の全趣旨」と付加する。

(二)  同一枚目裏末行の次に左のとおり付加する。

「成立に争いのない甲第六号証中被控訴人と訴外朝野喜三との間の本件土地売買の日時に関する主張を記載した部分は右認定を妨げる資料となし難く、また、本件において訴外中村繁が本件土地の登記手続の委任状を発行した形跡はないが、一般に右委任状のごときは追完可能な性質の書類であるから、同人が前示印鑑証明書、権利証等を交付した当時、右委任状の発行のみはこれを拒否した等特別の事情も認められない以上、右委任状未発行の一事を根拠にして本件土地売買契約成立に関する前記認定を否定することはできず、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。」

(三)  同二枚目表七行目から八行目にかけて「他に右主張を肯認するに足りる証拠はない。」とある次に左のとおり付加する。

「たとえ爾後において控訴人主張の弁済供託がなされ、また訴外朝野喜三が控訴人主張のように右供託金の還付を受けたとしても、これによつて直ちに朝野の支払つた代金は総額一一万円に過ぎず、約旨の代金に未払があつたとすることはできないのみならず、朝野が右供託金の還付を受けたのは、官署作成部分につき争いなくその余は当裁判所が真正に成立したものと認める乙第二二号証の一の記載によれば、昭和三八年一〇月八日であつて、このころはすでに被控訴人が中村敏治らの仮装行為を真実と誤認して本件土地について本件の裁判上の和解を成立せしめたあとであることが明らかであり、なんら前記認定を左右するものではない。」

(四)  同三枚目表六行目に「第八、」とあるのを「第八号証(原本の存在も争いがない。)、」と訂正し、同八行目に「被告本人の供述(一部)」とある次に、「ならびに弁論の全趣旨」と付加する。

(五)  同四枚目裏二行目に「被告への所有権移転登記がなされた。」とある次に左のとおり付加する。

「本件は、訴外中村敏治から本件土地を譲受けたとして本件和解調書について承継執行文の付与を受けた控訴人と本件和解の他方当事者である被控訴人との間で、本件和解の瑕疵の存否が争われているのであり、瑕疵ありとする被控訴人が、訴外中村繁から訴外大久保誠、右大久保から訴外中村敏治に対する本件土地の各売買がいずれも仮装行為であると主張するのに対し、控訴人はこれを争う旨陳述する。しかし、控訴人が訴外中村敏治から本件土地を譲受けたのは前訴訟において控訴人と訴外中村敏治間に成立した訴訟上の和解によつてであるところ、前訴訟において、控訴人が前記各売買を仮装行為であると主張していたことは当事者間に争いがない事実である。以上によれば、控訴人は、本件土地を譲受けるに至る前訴訟の過程においては、前記各売買を仮装行為であると主張しながら、当該権利関係についての当事者適格を取得した本件和解の効力を本訴で被控訴人から攻撃されるや、反転して、前記各売買の仮装行為性を争う挙に出ているのであり、右は訴訟上の信義則ないし禁反言の法理に照らし許されないところである。のみならず、前記各売買を仮装行為と認めるべきことは先に説示したとおりである。」

以上のとおりであるから、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(浅沼武 蕪山厳 高木積夫)

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